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滞在記 2023.03.10 Update

農業を通じて人々の食卓を支えるレギューム。「みのりの秋」に行われる収穫の様子を取材。

だいだい色に染まる夕日が美しく、そよ風が冷んやり吹き始める浦幌町の秋。
町内の田畑では野菜やお米の収穫の時期を迎えます。

浦幌町が位置する十勝地方は、食料自給率が常に1000%を超える地域。
日本最大の食料生産地として、道内のみならず全国へ安全で美味しい食材を送り届けています。
その大切な役割を担っている農家が、浦幌町にはあります。農事組合法人レギュームです。
「農事組合法人」という言葉を、初めて聞いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、個人の農家が集まって農業生産の協業を図る組織のことを表しています。

今回の取材では、レギュームが管理している畑や施設を見学させていただきつつ、組合員である井戸川 正人(いどがわ まさと)さんに「レギュームでの1年」や「農業ではたらく」ことをテーマに、お話を伺いました。

レギュームではたらく、1年間とは

「レギューム」という法人団体になった年は、平成16年4月。それまでは組合員が各個人で農業を営んでいたといいます。
レギュームは浦幌町の豊北地区に拠点を構えています。
主にビート、だいこん、にんじんの3種類を栽培しており、季節やそのときの状況によって育てる品種を変えているとのこと。
収穫した野菜は主に市場へ出荷され、ときどき浦幌町の道の駅でレギュームの野菜が売られていることもあるそうです。

作物を育てるシーズンは3月から始まります。
最初に栽培するものはビート。
まずはペーパーボットと呼ばれる紙の筒に土を詰めたり、播種作業を行ったあと、4月20日ごろから植え付け作業がはじまるといいます。

5月から7月にかけては、だいこんとにんじんの播種作業が行われます。
だいこんの収穫時期は7月末からと早く、植え付けてから60日で収穫できるようになるそう。
収穫後も別の品種を植え付けるなどして、順繰りに畑の運用をしているとのことです。

にんじんは9月20日ごろから収穫がはじまり、11月までには全ての野菜の栽培・収穫作業が終了します。
冬季の主な仕事は、事務作業や除雪。レギュームは法人格を持つ団体であるため、管理業務も発生するといいます。

レギュームで働く仲間には、以前は86歳のおじいさんもいたとのこと。

「年齢は問わないです。元気な人に来てほしいですね。」

と正人さんが話すように、農業をやりたいという気持ちと、元気な方であればレギュームではたらくチャンスがありそうです。

自然と共生するための工夫

車座になってお話を聞いたあとは、笑顔が明るい正人さんに畑を案内していただきました。
中学生の頃から、アルバイトとして農業に携わっていたという正人さん。高校卒業後、宮崎県にある知り合いの農家で6ヶ月ほど研修を受けたといいます。

「全然知らない人ばかりだったけど、自分の性格的に誰とでもうまくやれた気がします。」

と当時を明るく振り返る正人さん。
農業の仕事をはじめてから、いまでは15年ほど経ったといいます。

レギュームが管理している畑には、泥炭が混じっているとのこと。
水もちがよいことから、野菜や土に水分が含まれやすい特徴もあるそうです。また、干ばつにも強いといいます。
正人さんはこの土地で農業を営み、作物を育てている上で一つの特徴があるといいます。

「ここは海に近い場所なので、夏場は冷たい風が吹いて涼しいんです。朝露が降りることもありますね。そういった点があるので、野菜が腐りにくいなと思います。」

取材に伺ったときは「紅奏(べにかなで)」という品種のにんじんを育てている最中でした。
「紅奏」は、実の中央部まで赤みがかっていることが特徴。畑に植え付けてから90日から120日ほどで収穫でき、一週間ほどで芽がでるといいます。
レギュームで収穫できるにんじんは、どれも甘みが強いといいます。
特に煮物にすると、甘みが引き立ち美味しいのだそう。「紅奏」は野菜スティックで食べても美味しいといいます。

だいこんも含めて野菜にはさまざまな品種があり、この時期に「紅奏」を植え付けて栽培していることにも意図があると、正人さんは話します。

「暑さや寒さといった季節ごとの気温に強い品種を植えないと、花が咲いてしまって野菜は収穫できないんです。僕たちが植えるタイミングで、もうすぐ暑くなるような時期なら暑さに強い品種を植えます。」

農業は自然と共生する仕事。
暑さ・寒さといった気候環境に応じて野菜の品種を変えて栽培していることで、畑は効果的に使われているのです。

「みのり」から得られる喜び

続いて訪れた場所は、収穫した野菜を仕分けしている作業場。

畑で収穫した野菜はトラクターでこの作業場まで運ばれ、「自動選果機」と呼ばれる機械で選別をされていきます。
「自動選果機」は野菜を投入することで、大きさや重さなどの諸条件にもとづいて選別できる機能があります。

選別された野菜は、綺麗に洗い終わったあと、規定量を箱詰めして市場などへ出荷されます。
正人さんは、この場所で過去の作業を振り返りながら、農業・農家の「いま」を教えてくれました。

「もともとは全部人の手で選別していました。コンベアへ流れてきたにんじんを人が見て、Lサイズ、2Lサイズ…と仕分けていたんですよね。ただ、人も減ってきたので選別機を導入しました。最近の農家では後継がいなかったり、体力的に厳しくなって離農するところも増えています。いまは、兄弟で農業をやっている農家さんが多いですね。」

農業では機械化が進む一方、人手不足も問題となっています。
時代とともに変化していく農業の仕事環境。その中で得られる仕事の「やりがい」や「喜び」はどのような点にあるのでしょうか。正人さんはこのようにいいます。

「僕は、綺麗な野菜が収穫できたときに嬉しさを感じますね。周りが牧草畑なので、草を刈ったらときどき虫に食われてしまうこともあるんです。そして、野菜に対していい値段がついたときも、嬉しさを感じます。」

時間をかけて育てた作物だからこそ、収穫できたときの喜びややりがいはひとしおであることが、正人さんの表情から伺うことができました。

うすいオレンジと明るいブルーが混じり合う空の下、淡々と走る収穫機や、その上で作業するレギュームのみなさんを眺めていると、自然に左右される農業という仕事の細やかさに心を打たれました。

土にまみれたり、日焼けしたり、身体を使う仕事というイメージが強いかもしれませんが、レギュームさんへの取材を通して、もう一つの印象を持つことができました。

それは、目と感覚を使う、繊細な仕事であるということ。

収穫した野菜の品質や、土の状態の変化。空気や風の湿り具合など、変化を捉える目や感覚を頼りにしながら仕事をするみなさんの姿を取材できて、とても光栄でした。

この記事を書いた人

この記事を書いた人 新谷有希

新谷有希

人の話を聞いて、新たな学びを得ることが好き。いまのマイプロジェクトは「興味のあることを掛け合わせながら、道東・道北としなやかにつながる」こと。地域に根ざした取材ライターとしての活動は、どう続けられるのか。デンマークにある人生の学校「フォルケホイスコーレ」を日本でどう広げていくのか、色んな人たちと探究中。

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