トップページ 〉 浦幌のこと 〉 自分と向き合い、作業を続ける。…

滞在記 2024.03.22 Update

自分と向き合い、作業を続ける。冬の林業1日体験

長野県出身、旅の道中で浦幌に滞在している長崎航平が、人生初の林業の現場にお邪魔してきました。冬の林業の現場での一日体験を、写真を併せたコラムでお送りします。

まだ夜が明けきらない浦幌の冬の朝、寒さに耐えつつ滞在先の宿から北村林業の事務所に向かう。

朝6時過ぎ、北村林業の事務所には続々と社員たちが集まってくる。事務所の前でラジオ体操を済ませると、全体で共有事項の確認、それが終わるとそれぞれが現場に向かう。今回僕が同行させていただいた現場は、浦幌の街中から車で30分ほどのところ。

「寒いから暖かい格好してきなー」という北村社長からの事前のアドバイス通り、極暖ヒートテックにスウェット、その上にmont-bellのインナーダウン。上から冬用の厚手のアウターを羽織り、さらにその上につなぎという自分が持ちうる全ての暖かい服を着込んで森に入る。

作業場に到着すると、従業員の方が親切に「車の暖房つけておくから寒くなったら、いつでも休憩してなー」と声をかけてくれる。どこまでも気遣ってくれる皆さんに感謝の思いを持ちつつも、そうはいっても長野出身である程度の寒さには耐えてきたという自負に火がつく。休憩はしても一回ぐらいまでだな、体験だからってある程度は骨のある若者だと思ってもらわねば、と謎の意気込みを秘めて作業を始める。

ちなみに自分の仕事はというと、切り倒した木の幹の太さを一本一本測ってその数字を書き込んでいくというもの。特別な資格や免許が必要な作業はできないため、自分が冬の林業の現場で力になれることといえば、定規とマジックを持ってひたすら太さを測る仕事ぐらい。

数字は偶数で記入する。
使う道具も極太マジックインキと、竹製のお馴染みの物差しの2つ

外の気温は氷点下10°以下、暖房の効いた車内で温まっていた体も一瞬で冷え切る。足元がとにかく寒い。寒いを通り越して痛い。先ほどまでの気合いはどこへやら、開始10分ほどでぬくぬくに暖房が効いた車内が脳裏にちらつく。

自分にとっては2時間半ぐらいに感じられたが、時計に目をやると作業を始めてからまだ20分ほどしか経ってない。やる気とは裏腹に早々と1回目のリタイア。車窓から森に目をやると、暖かい車内で何もできない自分とは対照的に、黙々と作業を続ける北村林業の皆さんが目に入る。かっこいい。。

昼休憩を終えて、午後の作業が始まる。太陽も昇ってきて午前中よりも少し暖かい。午後も自分の作業内容は変わらず、幹の太さを測ること。本当に少しずつではあるが慣れてきて、作業にも集中できるようになってくる。

森の現場では基本的に1人で作業を進めることが多いそう。聞こえるのは森からの鳥の鳴き声、水の流れや風の音。重機のエンジン音、木を切っていく音。誰と会話をするわけでもなく、「定規はこう持った方が効率よく長さが測れるのでは?」「寒いけどあと10分ぐらいは耐えられそう、とりあえずここにある分の丸太だけは測り切ってしまおう」などと、頭の中で自問自答したり、思考に耽りながらただただ定規とマジックで長さを測り続ける。

すると不思議なことに、そんな考え事すらもせずに、ただひたすら作業を進めている自分がいることに気づく。時間が過ぎていく感覚も曖昧になっていくのが、悪くはない。少し前にインターネットの何かの記事で、釣りやきのこ狩り、バックカントリースキーなどの自然の中での遊びは、動きながらの瞑想状態を生む、といったようなことが書かれていたことを思い出す。森の中で黙々と作業をするのは、この感覚にとても近い気がする。ある決まった作業を続けるうちに、その作業の流れにはまっていく感覚。これは自分の中でも初めての体験であり、日常の生活の中では味わえない体験だった。

そうこうしているうちに太陽も傾いてきて、作業は終盤に差し掛かる。1日の最後に行うというのが、使っていた重機の泥を素手やスコップで丁寧に取り除き、重機の跡がついた地面を慣らす作業。「これをしないと次の日が大変なんだよ。。重機の泥や地面が荒れたまま固まっちゃうからね」と語る北村林業の社員さん。

この日に入った森にそびえ立つ木々は、1967年に植栽されていたもの。平成生まれの自分からしたら、自分が生まれるよりも前に植えられた木が、こうして今切られているのは不思議な感覚である。そしてそれと同時に北村林業でも毎年、木を植え続けていることを思い出す。それはもしかすると、今日の自分と同じように、今はまだ生まれていない世代の人たちが使うことになる木かもしれない。時に人間の一生よりも長い時間軸で捉える必要のある林業の世界。

1日の最後の仕事が次の日に備えるための作業であるのも、今の自分だけのためでなく、目に見えないいつかの誰かを想う林業の現場らしいな、と思ったりした。

仕事が終わるのは15時過ぎ、一般的な事務職の仕事に比べれば終業の時間は早いが、林業の現場では陽が沈んでしまっては仕事にならないため、この勤務時間になるのも納得である。

朝日が出る頃に仕事が始まり、陽が沈むのと同時に仕事が終わる。外仕事はデスクワークよりも肉体的な良い疲労感があって、いつもよりもお腹が空く。

本来、働くってこういうことなんじゃないかと思うほど、まさに人が動く一次産業の魅力を感じた1日体験。程よい疲労感と満腹感からか、この日はいつもよりも大分早めに眠りについた。

お世話になった北村林業の皆さん、ありがとうございました。

▼クリックにて写真を拡大することができます

この記事を書いた人

この記事を書いた人長崎 航平

長崎 航平

2001年生まれ、長野県上田市出身。旅の途中で行き着いた浦幌町にひょんなことから1ヶ月ほど滞在。柴犬とエビチリが好き。

タグから探す

カテゴリーから探す