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滞在記 2025.01.15 Update

【体験記】牛の個性をもっと知りたくなった農場体験【山田農場】


はじめまして。釧路市在住の崎一馬と申します。

北海道の東側、道東エリアの主要都市である「釧路市」と「帯広市」のちょうど中間に位置する町・浦幌町に来ています。人口は約4100人。南北縦に広く面積は東京23区よりも遥かに大きいこの町にご縁があって5日間滞在させていただくことになりました。

浦幌には友人や仲良くしていただいている方が何人かいることもあり、北海道のなかでも足を運んだ回数トップ5に入るほど何度も訪れている町。

ゲストハウスができたり、新しいお店が連続して開業したり、90年続くお店を地元の20代が継いだりと、若者が増え、新しいムーブメントが起き続けている場所。浦幌町にはそんな印象を持っています。

浦幌町には何度か来たことがあるとはいえ、住んでいる釧路市もそこまで遠くないということもあり、2日以上の長期滞在はしたことはありませんでした。「5日間の滞在だからこそ会える人や体験を」ということで今回、人生で初めて畜産農場に体験でお邪魔させていただくことに。

今回はその様子をお届けします。

人生初の「牛との仕事」

北海道に来て4年。

車で走っていれば牧場を何件も見るし、あの独特な「牛の香り」に鼻をツンとさせられた経験は数えきれないほどあるけれど、思えば今まで牛舎に入って作業をしたことは一度もない。どんな作業をするのか……? 未経験でも大丈夫なの……? と、期待感と少しの緊張を持ちながら車を走らせた。

浦幌中心地から車で5分も走れば牧草地が広がる。そこからさらに5分ほど走った場所に今回体験させていただく「山田農場」さんが見えた。

十勝といえば、スーパーに並ぶ牛乳パックやヨーグルトに描かれているようなとにかく広い草原に白と黒の「乳牛」たちがたくさん放牧されていて……というイメージがなんとなく強いが、実は黒牛(和牛)の生産も盛ん。

ここ山田農場は浦幌町の中で最も和牛を生産する農家の一つだ。

「ここに立って周りを見渡してみて」

そう私を案内してくれたのは社長の山田卓さん。

「見える景色、全部ここの敷地だから」

あの山の向こうにも敷地があるらしい…見えない…

人生で聞いたことのない敷地の説明方法にThe北海道ともいえる何もかものスケールのデカさの洗礼をいきなり浴びる。理解するのに数秒かかるパワーワード。

「うちは畜産の他にも、牧草とか大豆・小麦の畑作、乳牛を扱う預託事業もやっているんだよね。それで敷地もこんなにも広くなっちゃって。そしたら機械も大きくなっちゃって(笑)」

家が二軒くらい建つお値段らしい…

一軒家並のサイズのトラクターを紹介してもらいながら、今日の作業について教えていただいた。

「今日はこの後、午後の餌やりとかの作業があるんでそれをうちの社員と一緒にやってもらうね」

聞いたところ、山田農場での1日はざっくりとこんな感じとのこと。

山田牧場の1日の流れ

6:00
出勤

6:00〜8:00
朝の給餌・放牧・除糞清掃など

8:00〜9:00
休憩

9:00〜12:00
除糞清掃・体調管理・のベッド(藁)の交換など

12:00〜14:00
休憩

14:00〜17:00
昼の給餌・退牧・除糞清掃など

17:00
退勤

今回は14:00〜17:00の枠にある作業を体験させていただいた。

教えてくださったのは今年の春から山田農場の社員として働いている新井さん。現在は浦幌町のお隣・豊頃町で暮らしながら農場の社員として働いているそうだ。

牛舎での仕事はまず除糞・清掃作業から始まる。この日は午前中にある程度の除糞作業は終えられていたそうで、午後は牛が柵から顔を出して餌を食べるスペースの清掃からスタート。食べ残した牧草を除けていく作業だ。

柵前の傾斜のついている場所を清掃していく

この作業が終われば、朝放牧させた牛たちを牛舎に戻す作業へと移る。

「このあと、放牧している牛たちをこの牛舎に戻します。放牧場を見てみてください。もうね、僕のこの餌を与える準備の音に反応して柵の前で牛たちが待ってますから(笑)」

新井さんの指さす先にある放牧場へ行ってみると、

いた。

ここまで純粋で素直だとちょっと可愛い……(笑)。

「んじゃ柵外すんで気をつけてくださいね〜」

新井さんが放牧柵を外した瞬間……

ドドド…

ドドドドド…

ドドドドドドドドド…..!!!!!

地響きを鳴らしながら数十頭の牛たちが一斉に牛舎へ走ってくる!

そんなに急がなくても…… と思いながらも「ご飯だ」と言わんばかりの興奮具合にも少し可愛さを感じた。(※僕の前にはちゃんと別の柵があるので安全です)

全頭が牛舎に戻ったら飼料を与える作業へ。

牛たちは飼料が入った荷台を見るやいなや柵からこれでもかというほど顔を出す。

新井さんは、聞くと山田農場に来る前までは酪農系の仕事をしていたとのこと。飼料を手際よく牛たちに与えていく姿になるほどと納得した。

「じゃあ、餌やりやってみますか?」

初めての作業にドキドキと緊張が走る。荷台とシャベルを受け取り新井さんの見よう見まねでやってみる。

小さい頃、このタンクには大量の牛乳が入っていると思っていた

外の飼料タンクから飼料を荷台にパンパンにして、シャベルで約1杯分の量を1頭ずつ与えていく。慣れないせいか姿勢が掴めない。おお……意外と腰にくるんだ……。

写真でも伝わる不慣れさ、ぎこちなさ

与える飼料の量は決して“シャベル1杯分”などと決まっているわけではないそうだ。

言われてみればそれもそうだが、牛も生き物。その日の体調や個体によって食べる量も変わる。

「牛の体調を見て、その日に与える餌の量や餌の内容を考えてあげています」

「まずは便を見るんです。緩かったりすると、食物繊維が豊富な飼料を多めに配合したり、硬すぎると別の方法を取ったり。あとは、普段食欲旺盛な子なのにご飯に興味を示さなかったり、いつも人懐っこいのにずっと座りっぱなしな子がいたりすると体調が悪いのかも? と経過を観察したりしますね」

食欲旺盛な牛、少食な牛、人が怖い牛、興味深々な牛、他の牛がご飯を食べ終えてから食事に入る牛。見た目ではわからないが一頭一頭それぞれ「個性」がある。
それぞれの個性を知る。それは牛たちの小さな変化に気付くための第一歩なのだ。

人間のように言葉を発することはないし、体調が悪くても表情に表れることもない。餌やりは単なる作業ではなく、牛たちの小さな変化に気づいてあげることができる重要な作業なのだと知った。

飼料を与え終わったら次は牧草を与えていく作業へと移る。

手入れが行き届いた半世紀モノのトラクターを颯爽と操りながら牧草を専用の機械でカットしていく。草のいい香りが牛舎内に広がっていくのを感じた。

新井さんはトラクターの運転は未経験。

新井さんも社長もおっしゃられていたが、めちゃくちゃ難しそうに見えて意外と普通の車の運転と対して変わらないらしい。未経験でも1週間もすれば操れるようになるそうだ。

牛舎はここの他にも「子牛牛舎」「親子牛舎」「預かり乳牛牛舎」と牛の大きさや種類によって分けられている。一つの牛舎の作業が終わればまた次の牛舎へという流れで仕事を進めていくのが日々の流れ。

「今日は何事もなく順調に作業が進んだので、このままいけば16時半くらいに全部の作業を終えられそうですね。そういう時は少しでも楽になるように明日の作業の準備をしたりします。早く帰る時もありますけどね(笑)」

北海道に住んでより一層身近に感じるようになった畜産・酪農という産業。

その仕事は単に牛を大きく育てるだけではない。いいお肉、いい牛乳を生産するということは、生産者と牛との間に深い関係性を築くことで初めて生まれるものだ。

その関係性は「言葉」という手段で築くことはできない。毎日触れ、見て、小さな変化を感じとる。

僕はたったの2時間の体験でもちろん牛たちの感情を捉えることなどできなかったが、これが半年、そして1年と経験していくなかでふと牛たちの感情を捉えることができるようになるとしたら、その瞬間のやりがいと嬉しさはこれ以上ないだろうなと感じた。

生き物を扱うという「責任感」のある人に

体験の最後は山田農場代表・山田 卓 さんに浦幌での暮らし・農場での働き方についてお話を伺った。

「今、うちの農場では僕を含めて家族が3人、社員が2人、女性のアルバイトが1人の合計6人で回しています。基本シフト制で休みは月6日と有給。繁忙期とかどうしてもこの日は休んでほしくない! という日は事前に僕から伝えてその日に休みを入れるのを避けてもらったりして調整していますね」

「年齢は不問、未経験でも大丈夫です。ただ、やっぱり生き物を扱う以上”責任感”のある人に来て欲しいですね」

「子牛が生まれたりと新しい命が生まれる場所でもあり、出荷・そして病気など別れのある場所でもある。畜産業は生死を身近に感じる仕事。そこに対しての度胸と責任感のある人と一緒に仕事をしていきたいですね」

インタビューの最後に、こんな質問を投げてみた。

ー山田さんにとって「浦幌」とは?

「みんな聞くよねそれ(笑)」

「僕にとってやはり浦幌は”Home”。仕事をしている時間も幸せだし、落ち着くんですよ。そして何より年齢や職業を超えて”仲間”がいるという幸せはこれ以上ない。一緒にご飯を食べて笑いあったり、町の将来を一緒に考えたり動いたりする仲間がいるのは本当に幸せだと感じるね」

ーこの町には仲間がたくさんいる。ー

この言葉ほど日々を豊かにしワクワクさせてくれるものはないだろう。

山田さんもそして浦幌も。新しい仲間との出会いを楽しみにしている。

この記事を書いた人

この記事を書いた人﨑一馬

﨑一馬

1996年大阪府出身
2021年に釧路市へ移住。同年よりカメラマンとして釧路・道東を拠点に活動をスタート。HP用素材・Web記事素材の撮影のほか家族・記念写真撮影を行なっています

年間3万キロ走るほどのドライブ好き
特技は3分で寝れること

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