【私が出会った浦幌町民(7)】馬はもちろん、お母さんもお父さんもチャーミング〜北村牧場 北村さん夫婦〜
生まれた場所や土地柄にしばられず、「この場所にずっといたい」と心から思えている人たちが、私はうらやましい。そんな人たちに対するうらやましいという思いは、実は多くの人たちが抱えているものなんじゃないだろうか。生まれ育った町や、住み慣れた町で自分がやりたいと思ったことができなかった、共感してくれる人がいなかった。そうやって夢を諦め、都会に向かった人もたくさんいると思う。そんな私は、「この場所にずっといたい」という思いを素直に表してくれた9人の町民たちに、ここ、浦幌町で出会った。
こんにちは、須藤か志こです。1日をいい締めくくりで終われた昨日のカナリアのお店の前を通り過ぎながら、今日の最初の目的地に向かっていた。今日は十勝の農業の開拓を支えた「馬」の中でも一際大きな「ばん馬」を育てている北村牧場さんに行く。
「もうとんでもない競馬好きだったんだよ、この人は!」北村節子さんは、心底呆れたように言う。それを聞いているのかいないのか、北村俊明さんはニコニコと馬を撫でている。
2人の会話を聞いているだけで、笑いが込み上げてくるチャーミングなご夫婦だ。2人は浦幌町でばん馬を育てて40年にもなるという。
体重1000キロと、重量がサラブレッドの倍ほどある「ばん馬」は、十勝の広大な畑を耕す動力として人と暮らしを共にしてきた。恐る恐る触ってみると、少し硬い毛の感触と体温が伝わってくる。
俊明さんが話し出す。「俺の実家では馬を育てていて、俺も馬が大好きで。馬とは関係のない仕事をしてたんだけど、もらった給料は全部競馬に使ってたんだ」「そのせいで大変だったんだから……」「もう競馬にお金を使うのはやめようと思ってな。でもどうしても馬が好きで、自分で育ててみたいと思うようになったんだ」と、2人の軽快なトークが続く。
「私は嫌だったのよ。生き物って怖いし……でも、いまは可愛いくてしょうがない!」と豪快に笑う節子さん。「でももう80だから、馬の仕事はやめようかって話してるんだ」。節子さんはしんみりとした口調でそうこぼす。
「でもお父さんがやめられないんだ。馬が可愛くて」。節子さんはそう言うけれど、節子さんの馬たちへの愛情も相当なものだ。
私もさっきからずっとばん馬を撫でている。可愛いのだ。北村さんご夫婦の馬への愛情が、私にもわかったような気がして嬉しかった。2人にはいつまでも「やめられないね」と言い合っていてほしい。
この場を離れたくはなかったが、時間になってしまったので牧場を離れることにした。そして次に向かうのは海沿いだそうだ。浦幌町の名物にもなっている魚の乾き物を作っている人のところに行くらしい。まだまだ終わらない浦幌町。そして今までと全く異なる仕事場にまだ出会える浦幌町。また次も楽しみだ。