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働く人 2022.11.29 Update

未来の人々と浦幌町へ”タスキ”をつなぐ北村林業株式会社。時代の先端をゆく働き方や取り組みとは。

浦幌町北部の現場で「火入れ地拵え」を見学させていただいたあと、事務所へ訪問した。

ここで北村昌俊社長と、造材部社員の森さんに、北村林業株式会社における「働き方」を中心に話を伺った。最初にお話を伺った方は、造材部社員の森 巨樹(もり おうき)さん。
森さんは札幌市出身。前職は陸上自衛隊の第一空挺団に所属し、千葉県の駐屯地に赴任していた。
その後札幌へ戻り、「北海道森林整備担い手支援センター」で林業に関する知識や技能を学んだのち、2021年に北村林業株式会社へ就職した。

森さんには「造材部」の仕事内容や日々の現場での雰囲気・実感したことなど現場視点での話を伺った。

「北村林業株式会社」での1日

北村林業の主な部署には、造林部と造材部がある。
造林部は木を植え、育てることが仕事だ。伐採後の山に木を植えるために「地拵え」という整地作業を行うほか、苗木の植え付け作業、草刈り、除伐などを行う。

造材部の仕事は、どのようなものなのだろうか。森さんに伺った。

「造材部の主な仕事は、木を伐採して、重機で搬出することです。伐採した木は、商品として販売できるように加工します。」

「私は伐採した木をブルドーザーで移動させ、ハーベスタという重機を使って販売できるように切断しています。切断すると1本の長さ2〜4メートル、直径が12〜30センチほどになるんです。最後は切断した木をトラックに積み、束にして、ワイヤーで引っ掛け搬出します。」

社員は朝6時に事務所へ集合し、ラジオ体操と作業内容の打ち合わせを行う。
現場は浦幌町内に限らず、豊頃町・幕別町・大樹町・白糠町と広範囲に及ぶ。
現場での作業時間は15時30分までと決まっており、夕方事務所に戻った上で1日が終わるそうだ。

機械を活用する難しさ

森さんが作業現場でブルドーザーやハーベスタを活用しているように、林業の現場では作業の機械化が活発に行われている。
だが、機械を使いこなすことは容易ではないという。そんな中、森さんは一つの目標を力強く語った。

「ユンボ(ショベルカー)の作業でサイズごとに木を積み上げていく「巻きたて」という作業があって、その作業を綺麗にできるようになりたいと思っています。」

機械を扱う上で教わる相手は「機械」ではなく「先輩」や「同僚」だ。
現場での人間関係や雰囲気はどのような環境なのだろうか。

「社員のみなさんは優しいので、話しやすい環境を作ってくれているなと感じます。入社して1年以上経ちますが、今でもわからないことがあったらすぐに話を聞けていますね。作業する上で本当に危ないことも、しっかり教えてくれます。」

現場における機械化が着実に進み、活用できている理由は機械の技術力が進歩しているだけではない。
社員同士の温かなコミュニケーションがあるからだと、森さんの柔らかな表情から伝わった。

印象に残っている光景

機械化が進む林業の現場において、「人が作業する」ことで得られる感情や思いはどのようなものなのだろうか。
森さんは、過去の現場を思い出しながら語った。

「入社して半年ほどたったときでした。現場が終わったときに、周りの景色がすごくすっきりして見えたんです。そのすっきりした様子を見て『ちゃんと仕事ができたな』と実感することができました。そのときは秋で、日の当たり方が全然違うなと思いましたね。特にトドマツは葉っぱが落ちないので、伐採すると光が綺麗に見えるようになるんです。」

オフィスワークでは実感することが少ない「日の当たり方」。
季節・天気・木の状況が日々変化してゆく実感を得られることは、林業ならではの特徴だろう。

林業の仕事で大切なこと

林業という仕事は、数十年単位にわたる自然の循環を支えていく仕事だ。
どのような人が、どのような心持ちで働くことがいいのだろうか。森さんの率直な考えを伺った。

「日本では戦後、家屋の建設が増えると同時に多くの木を伐採し、再び木を植えた歴史があります。一度山に人の手が加わってしまったら、その山は手を加え続けなければいけません。私たちは森の運用・管理をしっかり行なって、次の世代に続けていくことが大切だと思います。なので、森の管理がしたい人や自然が好きな人は、この仕事に向いていると思いますね。」

森の木々や自然環境と長期にわたって向き合うことになる、林業という仕事。
その魅力や大変さといった「実感」は、現場で働くからこそ得られるものだろう。

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続いてお話を伺った方は、北村林業株式会社4代目代表取締役の北村昌俊さん。

北村さんは浦幌町生まれ。大学卒業後は大手ゼネコン会社に就職した。その後Uターンで浦幌町へ戻り、北村林業株式会社の先代社長から事業を継承し、現在に至る。
北村社長には「働き方」を変える取り組みや考え方を中心に伺った。

時代とともに変化する「土曜日」のスタイル

北村林業株式会社では、現在森さんをはじめ20代の若手社員が増加している。
若手社員が増えるとともに、働き方も多様化してゆく現代において、会社が導入した新しい働き方は「週休2日制」の導入だ。
それまでの休日は週休1日(日曜日)のみであった。

その理由は、林業業界の構造にある。林業会社は指定された工期に間に合わせるよう作業を進めている。現場作業は屋外であることから天候に左右されるため、荒天の場合は作業ができない日や時間帯も発生する。作業の遅れを取り戻すために、週6日間働く必要性が生じているのだ。

しかし、北村林業では隔週で土曜日を休日にする制度を約8年から9年前に導入した。
北村社長が現代を生きる若者のスタイルを受け入れるようになったきっかけは、林業以外の環境にあったという。

「私がまちづくりに関わらせて頂いている中で、若者支援の活動をしている方と話す機会がありました。話をしていた当時は私も若いと思っていたけれど、若者は自分と全然違う感覚を持っていることに気づいたのです。特に現在は、私が学生時代の頃と違って、学校は週休2日制になっていますね。成長過程から生活リズムが変化していることには、驚きました。」

「私も会社を代表する人間として、主張や意見を認める部分は認めなければいけないし、若い人たちをどう生かすかという観点も考えながら、会社を進化させないといけないと思いました。」

時代の変化とともに「働き方」を変えてゆく北村林業。
その結果20代の社員は増え、一時期では女性の社員が作業員として働いていた時期もあった。

林業の伝統を、創造的に受け継ぐ。

北村林業における働き方が変化している理由には、作業の機械化を推進していることもある。北村林業では、先代の社長が就任していた20年ほど前から積極的に機械導入を進めた。造材の現場では木を切断する「ハーベスタ」などの導入が進む一方、造林の現場では機械化が進んでいない。
北村社長は林業の長い歴史と伝統を教えてくれた。

「造林の作業は平安時代から行われています。当時から、基本的な作業方法は変化していないんです。」

その中でも唯一機械化が実現した作業は、刈払機を用いた草刈りだ。
だが、北村社長は現状に留まることなく一つの決意を語る。

「今年から造林で『本当の機械化』を実現するために、さまざまなチャレンジをしています。実は造林の機械化は日本でも、世界でもあまり行われていないのです。以前テストしたものだと、ラジコンの草刈り機がありました。今後は苗木にICチップを取り付けて位置情報をラジコンに伝えることで、草刈り機がルンバのように自動で動くこともできそうです。」

林業という伝統を守りつつ、常に新しいことに挑戦してゆくことが北村社長のスタイルだ。
北村社長は、今後もさまざまな創意工夫を重ねてゆくだろう。

人と産業を持続的に守ることから、生ずる反動とは。

機械化の推進は、作業員の安全確保にも繋がる。
造林の作業は木を伐採したあとの現場で行われるため、日光を遮るものがない。夏場は炎天下の中で作業することになり、体力を多く消費する。
また、林業は第一次産業の中でも事故率が高い。特にチェーンソーや刈払機を扱う際の事故が多いという。

作業の機械化を進めることで、働きやすくなることは間違いない。
だが、北村社長は機械化を進めることで「作業が単純化する」可能性があると懸念している。
その上で、現場で機械を扱うことと、扱わないことをめぐって一つの葛藤があると話した。

「機械を扱うためには現場で実際に作業する経験をしておかないと、機械が壊れた理由や、作業に失敗した理由を判断できなくなってしまいます。人間が機械に使われないようにするための方法を、考えなければいけないですね。一方、機械化を推進しないと作業が過酷になってしまいます。特に、造林の現場は大変です。最初の数年は頑張ることができても、5年や10年以上続けられるかと問われたらみんな考えてしまうでしょう。考えた末に退職した社員もいました。林業という産業自体を継続していくためにも、難しい問題ですね。」

機械化を推進する反面、作業の単純化に伴って「自然の中で働くこと」や「木を切ること」という仕事の価値が失われる恐れもある。
北村林業だけではなく、林業業界全体において持続可能な働き方や作業方法はあるのだろうか。
北村社長の挑戦はこれからも続くだろう。

北村林業だからできること。北村林業だからやらなければいけないこと。

北村林業株式会社だからこそ、できる働き方がある。林業と異なる仕事を「掛け持ち」するスタイルだ。
過去に北村林業で働いていた社員が「林業をやりながらカフェもやりたい」という提案を北村社長にもちかけたことで、発案されたスタイルだという。北村社長はそのようなスタイルがあるとした上で、「新しい働き方」に対する考えを話した。

「社員の働き方を考える上で『この会社に縛られて働くという形じゃなくてもいい』という感覚はあります。例えば週3日〜4日は林業をやって、残りの日は自分の好きな別な仕事をやってもいいかなと思いますね。」
林業で「副業」が可能な世界になってきた理由は、機械化にあると話した。
「機械化して作業が単純化したら、仕事としての面白みはなくなります。ですが、その分働きやすくなることは事実です。その結果、週1日でも仕事ができるような職種になっていると感じています。」

現状では掛け持ちで働いている社員はいないという。
北村社長や現場取材でお話を伺った柳田さんは、若手社員の「自主性」に期待している。
仕事や働き方において自主性を持って考え、行動していくのは未来に入社してくる社員も同じだ。
最後に北村林業株式会社、もしくは林業界の未来を担う人々へ伝えたいことを伺った。

「私たちがいま伐採をしている木は、50年から70年前に人々が植えてくれた木です。まずは、昔に木を植えた人々に感謝の気持ちを持つことが大切だと思います。そして、林業は自然の中でキラキラとできる仕事ではありません。機械を使えば油まみれになり、造林の現場では炎天下の中大変な作業をすることもあります。そんなに簡単な産業ではないということは、改めて伝えたいです。会社を存続させるということは、地域を存続させることにも繋がってくるので、みんな自主性を持って仕事し、失敗しながらでも成長して欲しいと思います。」

最先端技術の導入や働き方の改革といった挑戦を常にしつづけている、北村林業株式会社。
10年後、20年後になったとき「どのようなスタイル」になっているのだろうか。
北村社長や社員の方達の、今後の取り組みに注目したい。

この記事を書いた人

この記事を書いた人新谷有希

新谷有希

人の話を聞いて、新たな学びを得ることが好き。いまのマイプロジェクトは「興味のあることを掛け合わせながら、道東・道北としなやかにつながる」こと。地域に根ざした取材ライターとしての活動は、どう続けられるのか。デンマークにある人生の学校「フォルケホイスコーレ」を日本でどう広げていくのか、色んな人たちと探究中。

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