【私が出会った浦幌町民(8)】やみつきになるおつまみを作る、かけ布団みたいな手〜山本商店 山本倖嗣さん〜
生まれた場所や土地柄にしばられず、「この場所にずっといたい」と心から思えている人たちが、私はうらやましい。そんな人たちに対するうらやましいという思いは、実は多くの人たちが抱えているものなんじゃないだろうか。生まれ育った町や、住み慣れた町で自分がやりたいと思ったことができなかった、共感してくれる人がいなかった。そうやって夢を諦め、都会に向かった人もたくさんいると思う。そんな私は、「この場所にずっといたい」という思いを素直に表してくれた9人の町民たちに、ここ、浦幌町で出会った。
こんにちは、須藤か志こです。前回の記事では「ばん馬」を育てている北村牧場さんに行き、チャーミングな夫婦のお話を聞いた。次に向かったのは浦幌町市街地から車で20分。海沿い・厚内漁港の近くにある「山本商店」だ。
山本さんの手は、とても大きくてふかふかで、かけ布団みたいな手だ。この安心感たっぷりの手で、長い間乾物や燻製を作ってきた。ただ、山本さんはこの仕事のことを「誰でもできることだよ」と照れて言う。
「干物や燻製を始めたのは、俺の代から」。ホッケやタコ丸ごとの燻製などが、景気のいいパッケージに包まれて店頭に並んでいる。
「全部我流だよ。アイデアから味付け、作り方まで自分で考えてるんだ」。
そんな山本商店の看板商品のひとつ、「ガンズ一夜干し」。「ガンズは漁師にとっては厄介な代物でね。身にトゲがついているから網に引っかかって困るんだ」。
なぜこれを商品化しようと思ったのだろうか。
「市場にはあまり出回らないけど、漁師の家ではよく食べる魚でね。身も肉厚で、高級かまぼことかに使われているんだ。俺はずっとこのあたりの漁師と付き合いがあるから、ガンズの扱いに困っていると聞いて商品にしてみたんだよ」。漁師町で育ってきた山本さんだからこそ、その美味しさを知っているガンズ。厄介者が日の目を浴びた好事例だ。山本さんに商品作りのコツを訊いてみた。「やっぱり365日天気は気にするな。湿気、気温。でも、誰にでもできるさ」。
いやいや、誰にでもできることではない。ガンズを噛み締めながら、そう思う。だって、このちょうどいいしょっぱさと皮の香ばしさはちょっと他にはない。商品をレジに持っていくと、山本さんがお会計をしてくれた。「こんなに食べれるかあ?」とからかうように言いながら、「これおまけな」と鮭とばをいれてくれる山本さん。山本さんのさりげない優しさと温かい手は、いつまでも忘れたくないなあ。
次の場所が最後だという。再び市街地へ戻り、向かう先は「浦幌町役場」。どんな出会いが待っているのだろう。