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滞在記 2024.12.10 Update

シティボーイ、漁に出る。七協水産体験記 前編

こんにちは!

ハハハホステルでヘルパーをしている一ノ瀬悠人です。
立命館大学の1回生です。

「どうにかしてタダで長く北海道に滞在したいな〜w そんなの無理かw」
なんて思ってたらハハハホステルのヘルパー募集を見つけ、はるばる浦幌に来て2週間。

こちらに来て地元の農家さんのお手伝いをさせていただく中で、第1次産業に興味を持つようになりました。
そんな折、浦幌ではサケ漁も盛んだという話を聞きます。

……サケ漁も体験したい。

ハハハのスタッフさんにも相談しどうにか体験できないかとお願いしたところ、七協水産さんが快く承諾してくださり、このような貴重な機会を作っていただきました。

七協水産さんは、浦幌町でサケ漁をメインに行う水産会社です。

ということで今回、そんな七協水産さんの漁に特別に参加させていただきました!

前日

明日の準備をします。

服装はこんな感じです。ワークマンの真っ赤なウィンブレと、透明な雨ガッパのコーデ。
めっちゃださいけどこれしかなかった。

かっこよさげな防水ズボンは股がビリビリに裂けてました。
一体何があったんだ…

03:00

おはようございます!

七協水産のMさんに朝(?)の2時半にハハハホステルまで軽トラで迎えにきていただき、厚内港に到着しました。

Mさん

昨日Mさんから「軽トラか乗用車で迎えに行くよー」と言われていて、
「軽トラだといいなー」と思ってたら軽トラでした。

道中シカにも遭遇して、ここまで来るのですでに楽しい。

今日乗船する船
ライフジャケットとヘルメットを貸していただき、このあとの説明を受けます

写真がうつむきがちなのは、面と向かってシャッターを切るのは失礼かなって思って。
(遠慮気質でヒヨっただけです すみません)

また、船の揺れと風と暗さに僕のテクニックが追いつかず、たまにブレブレの写真が混じっています。
脳内で補正してご覧いただけますと幸いです。

七協水産のみなさんにご挨拶をさせていただきます。みなさん快く受け入れてくださいました。

女性漁師さん「船揺れるけど大丈夫? 酔わない?」

一ノ瀬「酔い止め飲んできたので大丈夫です!(キリッ)」

女性漁師さん「ははっ(笑) 酔い止めなんて信用できないよ」

えっ……( ´・д・)

03:15

Mさんに港内を案内していただきます。

このコンテナには大きな氷がたくさん入っていて、サケの鮮度を保つのに使うそうです。

気温はたしか10℃前後だったと思うのですが、半袖一枚の漁師さんがいました。
ハンパないですね。

にわかにエンジン音が聞こえたかと思うと、倉庫からフォークリフトが何台も一斉に出てきました。

なんかかっこいい!

ブイイーン‼︎
ブオオーン…

フォークリフトを使って、氷を船の近くまで運ぶようです。

ウイイイイーン

船まで運んだら、今度は大きい網で氷を船に積んでいきます。
氷は跳び箱の1段目くらいの大きさで、クレーンも重そうです。

ヴヴヴーン

出港まであと少し!

03:30 出港

船頭さんから乗船の指示があり、とうとう出港!

伝馬船で漁船を引っ張って離岸します。

例の半袖の漁師さんです
ドルンドルン……

……!?

後ろにさっきの小さい伝馬船が引かれています。

驚いてMさんに聞いてみると、伝馬船の燃料の節約のためだそうです。

伝馬船は離岸の手助けだけではなく、なにやら漁でも活躍するみたいです。それは後ほど。

漁船は伝馬船を引いたままどんどん加速していきます。

わかってはいるのですが、
なんとなく馬に綱で結ばれて引きずられていくあの画が浮かんでしまう…

※あの画

04:00 網まで移動中…

時刻は午前4時。まだ周りは真っ暗です。

初めて体験するサケ漁の出航にはしゃぐ一ノ瀬。

くらーい!
はやーい!
風すごーい!

Mさん「危ないから座っててね」

はい。

船頭さん「コアラみたいだなハハッ」

船がどんどんスピードを上げていって、揺れもどんどん大きくなります。
立っていられない…
必死に金属棒にしがみつく僕。

平気な顔で立っている漁師さんたち

一ノ瀬「すごい揺れるんですね、海が荒れてるのかな」

Mさん「いや、今日はベタ凪だな」

一ノ瀬「”べたなぎ”ってなんですか?」

Mさん「波がなくて穏やかなのを凪って言うんだけど、特に凪てる時をベタ凪って言うんだよ」

まじ? これで? の顔

船頭さんや他の漁師さんがレーダーを確認しながら網を設置している場所に向かいます。

網のある場所までしばらく時間があるため、その間にMさんにサケ漁についてたくさん教えていただきました!

〜 サケ漁予習コーナー 〜

サケ漁は定置網漁です。

知事免許で定められている枠内に迷路のような網を仕掛け、誘い込んで閉じ込めるという方法でサケをとります。

サケ定置網漁(引用:農林水産省HPより)

いかんせん網が迷路のように張り巡らされてるので、

実際の写真

船の上からみてもこんな感じで、なにがどうなってるのやらさっぱりわかりません。

一ノ瀬「これ、すごいややこしいんですね。わからなくなったりすることないんですか?」

漁師さん「うん、あるよ」

あるんかい…

定置網の設置している1箇所を「1カ統」と数えるらしく、浦幌町では全部で5カ統の網が設置されています。昔は全部で11カ統の網が設置されていたそうなのですが、漁獲高の減少のため今では5カ統にまで減ってしまったそうです。

今回漁に向かう定置網は4カ統で、それぞれ2カ統ずつサケを閉じ込めている網があります。それを2隻の船で分担して回収していくのです。

出港するときはものすごいスピードでしたが、帰りは網をスタンプラリーしながら戻っていくので行きよりもゆっくりだそうです。

〜 漁師さんたちのお話し 〜

Mさん自身のお話も聞かせていただきました。

Mさんのご家族は、北海道開拓時代から代々漁師の家系だそうです。
しかしMさんはすぐに家業を継いだわけではないと言います。

Mさん「札幌の高校に通ってて、その後東京の大学に行ってたんだよね。それで、そのあとしばらくサラリーマンをして」

一ノ瀬「なぜ東京へ進学したんですか?」

Mさん「一回外に出たかったんだよね。ずっとこっちで育ったから」

一度外に出て、再び浦幌に戻ってきたMさん。
自分の意思で漁師になることを決めたそうです。

一ノ瀬「どのくらいの間漁師をなさってるんですか?」

Mさん「13〜14年かな。」

一ノ瀬「へええ…」

ちなみにMさんはいまは陸の作業が中心なようで、今回は体験の付き添いとして特別に乗船してくださいました。

本当に感謝です。ありがとうございます。

一ノ瀬「他の漁師の方はどうなんでしょうか」

Mさん「いろんな人がいるよ。俺みたいに一度外に出たり、移住してきてこの仕事についたり、もちろんすぐに漁師になった人も」

一ノ瀬「そうなんだ… 意外でした。漁師さんって、みんな若い頃からすぐに漁師になっているものだと」

Mさん「それもねえ、人それぞれなんだよ」

漁業を取り巻く環境が変わる中で、そこで働く人々の背景も多様になっている。

重要なことを学ばせていただきました。

05:00 漁(1回目)開始

いよいよ漁が始まります!

船頭さん「もうすぐ着くぞお」

操船をしている漁師さんが、サケを閉じ込めた網の横にすいすいと船を寄せます。
他の漁師さんたちも慌ただしく動き出しました。

いよいよ漁が始まりますっ!

と、唐突に
船頭さん「にいちゃん、網引くか?」

一ノ瀬「あみ?」

船頭さん「網引くんだよ網」

一ノ瀬「いいんですかっ!?」

実は今回、揺れる漁船の上では怪我をしたり漁の障害になったりする危険があるということで、参加形態はあくまで「見学」でした。
それが、船頭さんは漁を体験してもいいよと言ってくださったのです。

一ノ瀬「やらせてくださいっ!」

船頭さん「おう、頑張れよ」

魚を閉じ込めている部分の網を巻き取っていきます。そこはドラムが巻き上げてくれるので、しばらく待ちます。

僕の出番はまだです。

突然、船頭さんから声が掛かります。
出番がやってきたようです!

船頭さん「っしゃ、網ふめ網!」

一ノ瀬「網ィ!?」

船頭さん「そうだ!網をふめっ!」

サケは大きい魚のため、定置網の網目も大きくなっています。
そこに足を挟んだり引っかけたりすると、機械によって容赦無く巻かれる網によって、転倒や、最悪落船の危険性が生じます。
そこで網の上に足を置くことでその危険を予防しているのだと考察しました。

網を引く、強そうなドラム

引いたあみは上下の二層あって、十分に網が絞れたところで

船頭さん「上の網を引け!」

一ノ瀬「これですかっ!」

船頭さん「そうだ!」

一ノ瀬「ハァイ!!」

ドラムやエンジンの機械音で声が全然通らないので大声です。
無茶苦茶重い網を必死に引っ張ります。

船頭さん「もっと引っ張れ!」

一ノ瀬「はいっ!」

船頭さん「もっとォ!!」

一ノ瀬「ハァァイ!!」

船頭さん「まだァ!!!」

一ノ瀬「はぁぁぁぁぁいっ!!!!」

体が後ろに倒れんばかりになりながら網を引き続けます。
すると、

ビチビチビチッ!

海面がにわかにバタバタし出しました。

船頭さん「よっしゃ下がれっ!」

一ノ瀬「はいっ!」

網を巻くのが完了して、ここからサケをすくう作業に入ります。

絞った網の両端をポールで固定して、袋のようになった網の中に入っているサケを大きな網ですくってとります。

その後、すくったサケを船倉に投入します。

大迫力!!

定置網には、サケ以外にもいろんな種類のお魚が入っています。

松川がれい

写真のお魚は松川がれいといって、なかなか出回らない高級なお魚。

基本的にカレイはヒラメよりも値段が落ちる傾向だそうですが、このカレイはヒラメより高い価格で取引されるそうです。

そんな松川がれいをなんと、この後お刺身で食べさせていただきました。その食レポはまた後で!

行きに漁船に引きずられてきたあの伝馬船は、網の整備作業で活躍しています。

網に重りを設置して海の中で安定させたり、網を張るための外枠を設置したり、引っかかったゴミを取り除いたりと、大きな船ではできない細かい作業を担っているのです。

チッ……かっこいいじゃんよ

05:20 休憩タイム

1箇所目での作業が終了したので、2箇所目の網へ移動します。

余裕が出てきたので自撮り
改めて、はじめまして。

船尾で休んでいると缶コーヒーをいただきました。
ちなみに、漁業では船尾のことをトモ、船首のことをオモテと呼ぶそうです。

ひと仕事終えた後の一杯がうまい…!
(大した仕事してないのにおこがましい)

この辺でちょっと酔ってきました。
雨も降ってきて、少し寒い。

ふと、漁師の皆さんが腰につけている刃物に気づきました。
どれも鞘に素敵な模様があります。

一つ一つに美しい彫刻や彩色がなされていて、見惚れてしまいました

これは船上での作業時に必須な万能の刃物で、漁師さんがとても大切にしているものです。

調べてみるとこの刃物は「マキリ」と呼ばれており、アイヌの言葉で「刃物」を意味するそうです。その名の通りルーツはアイヌの小刀にあります。
桐製の柄だと海に落ちても沈まず、漁師御用達の刃物なんですって。

これを腰に差して仁王立ちで海を見つめる姿はもう、「男」って感じがしてむちゃくちゃかっこよかったです!

北海道沿岸域ではポピュラーなもので北日本でもみられるそうですが、僕の住んでいる大阪やそれ以南ではなかなかみられないものだそうです。

民俗学的観点から興味が深まりますね!

5:45 漁(2回目)開始

2箇所目に到着しました。
移動中スーンとしていた漁師さんたちが、到着した瞬間にすごい速さでテキパキ動きだします。

スーン…
テキパキテキパキッ !!

メリハリとは何かを改めて学びました。

僕も1回目で自分のすべき動きがわかったので、邪魔にならないようにうまく撮影ができるようになってきました。

おすそ分けを狙うカモメ

船倉に入った魚の中で、サケではないものを瞬時に見分けてピックアップする女性漁師さん。
まさに職人技です。

じっ……
ここだッ!

船倉に入っているサケの量を見ると、素人目では結構大漁に見えますよね。
でも実は、今シーズンのサケは不漁なんだそうです。

一ノ瀬「なぜ不漁なんですか?」

Mさん「それがねぇ、分かんないんだよね」

一ノ瀬「分かんない?」

Mさん「いろんな理由が考えられてて。
温暖化のせいで魚がいなくなっちゃったとか、稚魚があがってきた大型魚に食べられちゃったとか、稚魚の放流のしすぎで餌を奪い合って成長しにくくなっちゃったとか、学者さんは言ってる」

一ノ瀬「なるほど」

Mさん「魚を増やすために、やれる対策は全部やってるんだけどね」

うーん…

そのような会話の後で漁をよく観察してみると、確かに気づいたことがありました。

網の中には結構な数のブリやサバが混じっています。

大量にとれるブリ

本当はもっと南にいるはずの魚が、こんな北の海で獲れてしまっている。

シーズンごとの小さな要因以外に、もっと大きな、よくない変化が海に起こっているのだと感じました。
そしてその状況は悪化こそすれ、少なくとも改善する傾向にはない。

サケの不漁。 

その言葉には、教科書で習うだけでは分からない、実際に見ないとわからない重みがありました。

06:40 帰港

漁が終わって、厚内港に帰ってきました。

すっかり明るくなった空

このあと、サケのオスメスの選別や、ブリやサバなどサケ以外の魚を分ける作業など、出荷に向けた準備をします。

漁に出て魚をとって終わり、ではなくこの後もたくさんの仕事が待っているのです。

後編へ続く

※こちらの記事は2024年9月の体験をもとに書かれたものです。

この記事を書いた人

この記事を書いた人一ノ瀬悠人

一ノ瀬悠人

2024年夏休みにハハハホステルのヘルパーをしていました。立命館大学の1回生です。

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