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滞在記 2022.06.30 Update

林業をやるまで知らなかった、山の時間

はじめまして。2021年11月から40日ほど浦幌町にお邪魔していた、小室光大です。
神奈川出身、大学から北海道に。都会の大学に満員電車で通いたくない!と思って来た札幌は、国内有数の大都市。高校、大学、となんとなく無難な選択を繰り返し、就活もなんとなくやってみようとしたら上手くいかず、なんだかんだあって4年生の後期でワイルドカード「休学」を使ってみたら、その一ヶ月後には浦幌にいました(笑)

浦幌との出会いは、協力隊として活躍していたゼミの先輩(皆さんご存じ?の古賀詠風さん)との出会いでもありました。それから、2泊3日、3泊4日、時には弾丸1泊2日と、何度かお邪魔して、浦幌に来たのはこれが5回目。1ヶ月を超える滞在は初めてでした。

「地域で暮らしてみる」

「地域」に関心のあった自分に、ハハハホステルの小松さんが仮暮らしの場所を提供くださいました。ヘルパーとして過ごすとはいえ、やはりお金は必要。ということでつないでいただいたのが、今回ご紹介する「北村林業」さん。小松さん、北村さんありがとうございます!

まさかの林業

北大生の中には夏休みに農業バイトで荒稼ぎする人もいて、帯広畜産大生は酪農バイトで稼ぐなんて話も聞いていたので、「十勝でバイト」と言えばなんとなく「農業か酪農か」。なんて思っていたのですが…まさかの林業。

農業なら、畑や田んぼで植えたり採ったり。
酪農なら、つなぎを着て、牛舎を掃除して、搾乳して。
漁業なら、救命胴衣つけて船に乗って網引いて。あるいは加工や選別。
林業は……イメージがないんです。

きっと斜面でチェーンソーを使って木を倒すんだろう……その後は??
丸太を載せて走るトレーラーは見たことがありますが、その過程が想像できません。

お分かりのように、北村林業さんで働くまで林業のことを何も知りませんでした。
斜面を転がり落ちないか、倒れる木の下敷きにならないか…不安しかない大学生が山へ行ってきたお話です。

北村林業さん

山へ行く前に、「北村林業」さんのご紹介を。

北村林業には木を植えて育てる「造林」と木を切る「造材」の2つの部署があります。

自分は「造林部」で働かせて頂くことになりました。
(木を切らない?)早くもイメージすらつかない世界です。

いざ山へ

まだ夜も明けきらない6時15分。
浦幌市街の端にある会社に集合します。

ラジオ体操をして、朝礼。
その日の作業内容、注意事項を共有してから、ハイエースに乗って、いざ山へ。

向かう仕事場は大きく2箇所。
国有林や道有林、町有林などの「公有林」か、北村林業の社有林などの「民有林」です。

どこへ行くのか、どれほど走るのか。土地勘のない自分には分かりません。

舗装された道を飛ばしていたハイエースは、いつの間にか未舗装の林道へ。
車幅ギリギリの道を、泥を飛ばし現場へ走ります。

気付けば圏外。便利なスマホもここではカメラにしかなりません。

車を停めた場所から山の斜面を抜け現場へ。

両手に機材を持ってスタスタと歩く皆さんを、斜面に手をつきながらやっとの思いで追いかけます。(皆さん、なかなかの斜面ですよ??) 

現場に着きました。

山。見渡す限りの山。

人工物といえば遠くにかすかに見える送電線だけ。

ここが仕事場です。

「ジゴシラエ」

さて、木を植える「造林」ですが、そのためには植える場所を作らなければいけません。

伐採後の林(というか普通にただの斜面)には枝が落ちています。

枝と言っても、手で折れるような小枝じゃないんです。人の手じゃ持ち上げられないデカい枝がゴロゴロと転がる斜面を、植樹できるように綺麗にしていきます。これが「地ごしらえ」。

2人一組となり、大きい枝はチェーンソーで切って、小さい枝(小さくはないけど)は手で植える場所から除けていきます。

はい、お待たせしました。チェーンソーの出番です。
かっけぇ!! ですが、仕事で使うには免許が必要です。
免許を持つペアの社員さんに切ってもらいます。

実は、なんと同い年。
浦幌出身、浦幌で働きたいと高卒で入社したんだそう。

特に造林には高卒や大学新卒2-3年目の若い社員さんが多く、大学のサークルにも通じる明るく楽しい雰囲気。作業の合間にはたわいもない会話で盛り上がります。

 「ワイヤー掛け」

数日後。
雪も降ってきたので、造林部は作業を止め、造材部に合流。

林をつくる地道な造林に対して、こちらは「いかにも林業」な木を倒して集めて運ぶ作業。

先述の通りチェーンソーは社員さんしか使えません。

さらに「伐倒」(*いわゆる伐採。林業と言ってイメージする木を倒すあれ)には長年かけて培ったコツがいるようでベテランさんの仕事。

先日ペアを組んだ浦幌出身の同い年の彼は、ベテランの山子さん(*いわゆる「木こり」のことをこう呼ぶそうです。)が倒した木の枝を払っていたようです。枝といっても幹以外すべて枝ですからなかなかに大変な様子。

さて、山子さんが倒し、枝を払った木ですが、それだけでは斜面に横たわったままです。ユンボ(*パワーショベル)で運ぶには林道からアームが届かない。
ということで、ワイヤーを木に括りブルドーザーで引っ張ります。

これが「ワイヤー掛け(あるいは玉掛け)」

木に短い「子ワイヤー」を巻き付け、冠を「親ワイヤー」に引っかけ、ブル(*ドーザーは略されます)の後ろに付けたウィンチで巻き上げます。
ブルに乗るのもこれまた免許が必要。

僕は、ひたすらワイヤーを持って斜面を下り、木に巻き付け、合図を出す。ウインチを巻いて木を引き上げてもらい、ワイヤーを解いてもらったら、またワイヤーを持って斜面を下る。ワイヤーを巻き付け、合図を出し、ワイヤーを受け取って斜面を下る。・・・その繰り返し。

なかなかにハードなのですが、1時間に1度くらいのペースで休みを挟んで作業を進めます。

電波も届かない林の中、純粋に話だけをする時間。
どこへ行ってもスマホと睨めっこの現代で、スマホも触らず談笑する。圏外ならではの貴重な時間かもしれません。 

気付いたら、枝が散らかった斜面を上り下りするのにも慣れてきました。

さて、林道に「引き上げる」のは実は簡単なんです。
林道に「引き下ろす」のもありまして…

 山子さんが谷方向に倒した木は、枝も谷方向に向いているので、引き上げる時は山側の幹の太い部分にワイヤーを巻き、抵抗少なく林道に寄せられます。

対して「引き下ろし」

こちらは、谷側の太めの枝にワイヤーを巻き、枝の方向に逆らって木を下ろすので、林道に寄せた後ぐちゃぐちゃになった枝の中からワイヤーを探して解くのが一苦労。

(ユンボのある谷側に「引き下ろし」この斜面をワイヤーを担いで何往復も…)

休憩の感覚が短くなった!と喜んだものの、あっという間に時間が経っているだけでした(笑)

見えない山の中

林業と言えば、チェーンソーしか思いつかず、北海道で暮らしていても丸太を載せ国道を走る運材車しか目にしたことがない。

そんな自分が電波も届かぬ山に入り、斜面に散らかる枝を除け、ワイヤーを担いで斜面を上り下り。そして泥を被ったハイエースの中で昼飯を食べる。

そうして初めて、木を切る人がいて、枝を払って林道に寄せて運ぶ人がいて、そこまでに地ごしらえをする人、植える人がいる。そんな見えない世界を身をもって知ることができました。

たしかに農業や漁業ほどイメージが湧かず、かっこいい姿を目にする事はないかもしれません。彼らがつくる木材は国内の流通量の何割も占めていないかもしれません。

けれども、彼らが道から見える山林をつくっているのです。そしてその山が、畑を、街を、海を支えているのだとしたら、人知れず山で一緒に汗を流すのも誇りある仕事だと思います。

山の言葉。山の時間。

一次産業の例に漏れず、林業も朝は早かった。
とはいえ、酪農や漁業ほどでもない。ちょっと早起きくらい。
そして、日が傾く15時過ぎには作業を終える。午後になれば林の中はもううっすらと暗くなります。

(16時前、林の中を帰路につく。)

1時間に1度の休憩も自分の身体で自然と闘う林業ならではでしょう。

僕らの身体とは比べようもないほどに大きい「木」を相手にする仕事ゆえ、1日掛けてもこの斜面しか「地ごしらえ」できない。この範囲しか引き上げられない。人間の力の小ささを実感します。

数分で倒し、数十分で引き上げるのは、何十年も前に誰かが植えた木。
普段考えもしない「時間のスケール」に思いをはせられるのは山の中しかないかもしれません。

(たのもしい「ブル」と「ユンボ」)

「バッコン」(=伐根:伐倒後の切り株)
「ヤマゴサン」
「ジゴシラエ」

高校でも大学でも習わない、都会にはない言葉に出会って、少しは山に馴染めるようになったかもしれません。ちょっと世界が広がった気がします。

最後になりますが、お邪魔した北村林業さん、貴重な経験をさせて頂きありがとうございました!

INFORMATION

北村林業株式会社

50年、100年先も必要とされる企業であることを理念に、林業・木質チップ製造業を行っています。正社員の求人をはじめ、林業の業界が気になる方へ向けた就労体験の受入を行っています。

北海道十勝郡浦幌町字帯富97番地3

https://tsutsuuraura.jp/worker/archive/167/

この記事を書いた人

この記事を書いた人小室光大

小室光大

進路迷子で大学を一年休学。そうしてお邪魔した浦幌では、旧森林室の独身寮(ハハハホステル)のヘルパーでは薪を割り、北村林業さんで山に行き、浦幌木炭さんで顔をすすだらけにし、別の木材加工会社社長さん宅に入り浸り、浦幌で過ごした1ヶ月は図らずも「木」がそばにありました。何度行っても「また行きたくなる」浦幌にまたお邪魔しようと思います。

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