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滞在記 2022.07.21 Update

【私が出会った浦幌町民(3)】僕たちは選択できる。牛から学ぶ自己との向き合い方〜髙木牧場 髙木翔太さん〜

生まれた場所や土地柄にしばられず、「この場所にずっといたい」と心から思えている人たちが、私はうらやましい。そんな人たちに対するうらやましいという思いは、実は多くの人たちが抱えているものなんじゃないだろうか。生まれ育った町や、住み慣れた町で自分がやりたいと思ったことができなかった、共感してくれる人がいなかった。そうやって夢を諦め、都会に向かった人もたくさんいると思う。そんな私は、「この場所にずっといたい」という思いを素直に表してくれた9人の町民たちに、ここ、浦幌町で出会った。

こんにちは、須藤か志こです。前回の記事で、20代で浦幌町で起業し、ハマナスの化粧品を生産販売している森健太さんに会いに行った。そして次に向かったのは、浦幌の主要産業の一つである酪農牧場だ。お会いしたのは髙木牧場の髙木翔太さん。まさか、酪農牧場で自分との向き合い方を考えさせられるとは思ってもいなかった。

牧場に到着すると早速、牛舎に案内をしてもらい、牛舎の中で牛を見ながら話を伺うことになった。髙木牧場の牛は人懐っこく、私が近づくと興味津々に近寄ってきてくれる。かわいい。

髙木さん自身がとても牛のことを可愛がっている様子が一瞬でわかる。相思相愛という感じだ。そんな光景に癒されながら、髙木さんのお仕事について色々とお話を伺うことができた。

高木牧場では酪農の仕事を体験する「研修」を受け入れている。その研修では参加者に変わったことをしてもらうという。「牛の角を切る除角という作業なのですが、もちろん牛は痛がります。でも、その作業をしないと他の牛を傷つけてしまう。牛同士が傷つけ合わないようにする、人間都合な作業です」

普通、研修では除角という作業はしないらしい。なぜそこまでするのだろうか、と考えたし、同時に私たちはなぜ牛乳を飲むのだろうと今まで考える機会もなかったことを考えさせられた。除角前には、参加者に牛を名付けてもらうこともあるそうだ。名付けた牛を傷つけることで牛乳を「いただく」という実感を持ってほしいからだという。

「酪農の仕事を始めた当初、上手くいかず牧場に行かない日が続いたのですが、久々にふらっと牛舎に行ったら、一頭の牛がやさしく僕のことを舐めてくれて」

このおかげで、髙木さんには気づいたことがあったと言う。

「それまで牛のことを『お金稼ぎのツール』としか思っていなかったんだ。でもそうじゃなく、一頭一頭に個性がある。僕が飼育しないと牛たちは生きていけないけれど、僕も牛に生かされている。その関係性を忘れていたんだよね。」

牛たちは柵に繋がれ、牛舎から出ることはほぼない。

「繋がれた牛は何も選択できないけど、僕たち人間は選択できますよね。牛からは『自分で選べよ』と見つめられているような感覚です」

ただ状況を嘆くのではなく、自分で選択する。そんなことを牛との関係性から見つめ直してほしいと話す髙木さん。「選択できること」を常に意識しながら生活することは難しい。でも、高木牧場で牛たちと触れ合えば、目を背けてきた自分自身と向き合うきっかけができるかもしれない。

思わぬところで、自分との向き合い方を考えさせられる時間になってしまった。今後は髙木牧場に研修を受けにこようと思う。

そして、浦幌町での旅はまだ終わらない。次は神社の神主さんに会いにいくらしい。これまた何か自分の心をえぐられそうな気がしている。

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この記事を書いた人須藤か志こ

須藤か志こ

釧路市生まれ釧路市育ち。「つつうらうら」では、「ハハハホステル」での滞在中に出会った多くの浦幌民から聞いた、彼らがここに住む理由や魅力をご紹介。

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