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イベント 2024.02.23 Update

【参加者レポート】秋の一次産業ツアーに参加しました 後編

前編の続き〜

3日目となるこの日は朝5時に車で市街地を出て下浦幌に向かいました。下浦幌の朝日地区で3代続く「高橋牧場」が新しいチャレンジに備えて「株式会社デイリー・ブルーダー」へと変身したのは昨年の春のこと。町内の人でもまだ呼び慣れていないのだそうです。周りの土地が開けていて海も近かったせいで余計寒さが体に染みました。頭の真上に月が小さく明るく照らしていましたが周りはまだまだ暗く、電気のついているところが牛舎だとすぐにわかりました。社長の高橋さんの案内で中に入ると、想像していたよりも暖かいと感じました。ここにいるのは分娩前のお母さん牛とまだ小さい仔牛たち。大きな体をした牛たちはそれぞれの寝床で横になってもぐもぐと反芻をしながら、体中から湯気が見えてしまうほどの熱を出していました。朝の時間はいつも高橋さんご家族3人とアルバイトの方ひとりの4人で仕事をしているそうで、貴徳さんとバイトさんが搾乳している間、私たちは高橋さんの義父さんと義妹さんと一緒に仔牛の哺乳をしてから合流することになりました。

哺乳用の乳首がついたバケツ缶に8リットルたっぷり入ったお母さん牛の乳を、仔牛が首を伸ばして自然な形で飲める高さで持ったまま飲ませるのは、普段使わない二の腕になかなか来るものがありました。生まれて二日目の仔牛は、遊び心もあってか、まだ飲み方がちゃんとわかっていなくて、何回も口に乳首を戻さないといけなかったり、飲むようになるまで待たなければなりませんでした。思っていたほど簡単な作業ではなかったけど、小さいながらもその生きる力を強く感じさせる仔牛の、ミルクを飲む顔が可愛くて仕方がありませんでした。

その後は搾乳チームに合流して搾乳も体験しました。搾乳と清掃が終わって外に出るといつの間にか日がもう高く、朝の仕事を終えたお母さん牛たちは牛舎の中できれいに給餌場の前に一列になってご褒美タイムに入っていました。隙を狙ってアルバイトさんと一緒にその後ろでせっせと敷き藁の作業をしました。麦稈(ばっかん)を隅々までまんべんなく敷く、ただそれだけでしたが、後ろから聞こえる牛たちのもぐもぐ音の中、麦稈からの陽によく当たった匂いなどが心地よく、やったところからふかふか気持ちよさそうな寝床ができて行ってこれも気持ちいい作業でした。

最後の作業見学は、私たちが麦稈を敷いた牛舎にこの日から初めて大人の仲間入りをする若牛の移動です。ひとこともモーと鳴かず、ただびくっとも動かずに体全身で今いる牛舎を出ることを拒む若牛と、牛の前で引っ張る人、後ろから押す人、横から守る人。牛からも人からも緊張感が伝わる中、貴徳さんと家族は終始やさしい声掛けと動きで、何度もアプローチを変えて若牛が自分から進むのを待ちました。

そしてやっとのことで若牛が一歩踏み出し、そこからは本当にはやかったです。きっと、あの動かなかった時間の中に、牛と人間の聞こえないコミュニケーションがあっただろうなと、若牛のスピードに合わせて走って牛舎に連れて行く貴徳さんの後ろ姿を見て思いました。林業体験の時に感じた自然に包まれ自然とともにある山での仕事時間とはまた違う、牛一頭一頭と向き合う牛舎での仕事時間が感じられました。

体験が終わった後はこれから運用が始まる新しい牛舎を見せてもらいながら高橋さんと少し立ち話をしました。コロナ禍の打撃に加えて飼料肥料の価格高騰で酪農危機とまで呼ばれる今の状況はまだ大きな改善が見られません。しかし、貴徳さんは「これからもこの土地で酪農を続けていくから、将来を見据えて会社としての規模拡大と六次産業化を視野に入れている。」というのです。

生乳出荷の仕組み上一般に、酪農家さんにとって流通の向こう側にいる消費者に、「私が作った牛乳」もしくは「私が作った牛乳を使った製品」を届けることは、ほかの農産物よりもむずかしいですが、それでも高橋さんが取り組みたい理由がありました。北海道どこもかしこも酪農の成り手不足の課題に悩まされおり、浦幌町も例外ではありません。「酪農をやりたい人を増やすにはもっと消費者に酪農のことを伝えていって、儲かる酪農にしていかないと。」と、そんな思いを話してくれました。

これからもこの浦幌で仕事が続いていくために、今を担う主力世代が考える「自分たちの責任」。前日、二日目の午後のプログラムの中で、北村林業の北村昌俊社長には「地域」という視点からの思いを聞かせていただきました。本職以外にも地域で次の世代にバトンをつなぐための様々な活動に精力的に参画し、キーマンとして動く北村さん、その原動力は林業の仕事で経験からだったといいます。社会を取り巻く経済情勢に振り回され会社が危機に陥った時、先代からのお付き合いのある取引先たちが利益関係なく助けの手を伸ばしてくれたそうです。

経済性こそ第一だと考えていた北村さんはその時はじめて、地域に基盤を置き長く続いた会社がそれまでに作って来た有機的なつながりに気づきました。前人木を植えて後人涼を得。50年、100年と長いサイクルにある林業と山づくりの教えは人づくりに通ずるところがあると言います。前の世代が渡してくれたものをどう次につないでいくか、そうしてまちづくりに関わるようになったんだそうです。「一番大事なのは、常に次の世代を主役として考えることだ。」と北村さんは話してくれました。きっと、それが北村さんの思う地域の持続性なんだろうなと感じました。

自分のためではなく、これからのため。そんなお二人の話を聞いて、すぐ目の前の将来に悩んでいるような自分が恥ずかしくなったと同時に、自分の見据えるべき先が一つクリアになった気がしました。

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2泊3日と短い間ではありましたが、林業と酪農業と一次産業の中でも全然違う二つの仕事を体験させていただきました。もともと一次産業が好きで今までも身近な存在として感じていましたが、今回はあらためて「仕事」としての日常をのぞかせていただき、その中で山の時間、木の時間、牛の時間、人間の時間を体感できました。やっぱりわたしは、一次産業が好き、一次産業の人や一次産業の仕事が好きだと思いました。そして改めて、農林水産すべてが町内にあって、それも生産から加工や直売まですべてがバリエーション豊富に揃っている環境がある浦幌をより魅力的に感じました。また新しい浦幌の魅力を見つけに来たいと思います。ツアーの実施とサポートをしてくれたつつうらうらの皆さん、受け入れしてくれた北村林業デイリー・ブルーダーの皆さん、ほんとうにありがとうございました!

INFORMATION

株式会社デイリー・ブルーダー

https://tsutsuuraura.jp/worker/archive/1631/

この記事を書いた人

この記事を書いた人李 澍(り しゅ)

李 澍(り しゅ)

浦幌滞在中いつもこっそり楽しみにしていること、会計するときに「ハマナスカードお持ちですか?」と聞かれること。ハマナスカードはまだ持っていませんが、浦幌をいつも近くに感じている北海道8年目札幌在住の大学院生。

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